Sven Saaler and J. Victor Koschmann (eds.):
Pan-Asianism in Modern Japanese History. Colonialism, regionalism and borders.
London and New York: Routledge, 2007.



出版社のHP
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近現代日本史におけるアジア主義:植民地主義、地域主義、境界
スヴェン・サーラ、J. ヴィクター・コシュマン編


  近年の東アジアの国際関係の変容において、地域統合と地域主義がますます重要視されている。この著書は、東アジアの地域秩序と地域アイデンティティ構築への歴史的発展を分析しつつ、アジア主義を現在のアジア地域主義・地域協力の一形態として考察する。アジア主義という思想と運動が東アジアの地域統合を目指しながら、一方で日本によるアジアの植民地化の正当化にも貢献し、帝国の建設に不可欠な要素の一つとなった。

  トランスナショナルな「汎」運動という概念はヨーロッパの歴史と国際関係に由来しているが、19世紀半ばから「アジア連帯」、「興亜」、「アジア主義」、「大アジア主義」、「全アジア主義」、「亜細亜モンロー主義」などのような概念が日本における外交政策をめぐる議論においても、東アジアの近代的アイデンティティの形成の過程においても重要な要素であった。このようなアジア主義は定着しつつあるナショナル・アイデンティティとトランスナショナルへの強力な願望の挟間で形成され、様々なかたちをとり、多様なかたちで利用された。いずれのかたちでも、アジアの諸民族の結集と統合は文化的要素、すなわち文字言語、宗教、そして地理的近辺性、歴史的国家間関係、さらに人種的同感に基づいていた地域アイデンティティの構築によって進められてきた。このようなアジアの諸民族の結集と統合とは、まず欧米列強帝国主義と植民地支配に向けられていたが、同時にアジア内部の固有の文化の共通性も強調した。とは言え、アジア主義は東アジアにおける日本の指導・覇権、そして日本によるアジアの植民地支配の正当化にも利用された。

 このようにアジア主義の思想の様々な側面を探求することによって、この編書は地域アイデンティティの歴史的背景とその発展に重点をおきつつ、近年の地域主義の研究において多々欠けている史的次元を補完することを目指している。広い視野を取り入れるために、近年アジア主義の研究を進めている研究者の論文を通して、明治期のアジア主義から、戦時「大東亜共栄圏」の思想を経て、戦後の日本のアジア認識までが取り上げられている。

  この編著は2002年東京においてドイツ-日本研究所が開催した国際会議の成果として刊行されたものである。



目次

まえがき

1 近現代日本史におけるアジア主義:ネーションの超克、地域の創出、帝国の建設(スヴェン・サーラ)


第1部:地域アイデンティティの創出:理想と現実

2 近代日本におけるアジア主義:ナショナリズム、地域主義、世界(ユーニ)主義(バーサリズム)(三輪公忠)
3 興亜会・亜細亜協会のアジア主義 ― アジア主義の二重性について(黒木彬文)
4 普遍(ユーニ)主義(バーサル)価値とアジア主義:大本教のビジョン(ナランゴア・リ)
5 アジア主義と国家改造:中国とアメリカを同時に捉える視角はいかに誕生したか(加藤陽子)


第2部:地域主義、ナショナリズム、自民族中心主義

6 アジア主義とナショナリズムの狭間 ― 満川亀太郎の日本国家改造運動とアジア解放(クリストファー・ W.A.スピルマン)
7 戦間期日本における地域統合論の忘れられたリーダーたち ― 杉森孝次郎序説(ディック・ステゲウエルンス)
8 『悪いのは女性だったのか』 ― 井上秀子と井上雅二における国際主義とアジア主義(マイケル・A・シュナイダー)


第3部:地域覇権の建設:日本による「新秩序」の追及

9 徳ある神命のビジョン:安岡正篤の王道論(ロジャー H. ブラウン)
10 帝国の時空:三木清と田辺元の帝国的世界(ユーニバ)主義(サーリズム)(ジョン・ナムジュン・キム)
11 帝国日本における民族概念とアジア主義(ケヴィン M. ドーク)


第4部:戦時から戦後へ:アジア主義の変容

12 運命の構築:蝋山政道と戦時日本におけるアジア地域主義(J. ヴィクター・コシュマン)
13 戦後知識人にとっての「アジア」(小熊英二)
14 植民地主義の超克:1955年のバンドン会議(クリスティン・デネヒー)
15 国際関係におけるアジア主義:戦前、戦後、現在(初瀬龍平)


索引